まずは“知ること”からはじめましょう。
どう治療を進めていくかを、最終的に決めるのはご夫婦二人なのです
ご主人さまへの手紙にも書きましたが、できにくいのには必ず訳があるのです(現在の医療技術や方法では、見つけられないものもありますが)。お二人の場合、妊娠が成立するまでの一連の流れの中で、どのあたりでトラブルが起きているのか、その不妊原因を調べることで、医療サイドが何を補い、何を抑えればいいのかを探ります。そして、不妊治療医は、あなた方の不妊原因、奥さまの年齢、不妊歴(積極的に避妊していないのにできなかった期間)や治療歴、過去の妊娠歴(流産や人工中絶を含む)などを踏まえて、お二人に最適の治療方法をすすめることでしょう。
妊娠が木になるリンゴの実だとすれば、それをとるのに背伸びで足りる夫婦もあれば、ジャンプが必要になる夫婦もいます。リンゴが実りそうな場所を推測したり、肩車をしてみたり、ハシゴを用意したりといった夫婦のアシストするのが、私たちの務めです。決定的な問題がなければ、より自然に近い妊娠を目指して“背伸び”から挑戦をはじめてもらい、次第に医療によるお手伝いの中身をパワーアップしていきます。
これを、ステップアップ治療と呼んでいます。治療段階は、大きくわけて「1」タイミング指導、「2」人工授精(AIH)、「3」体外受精や顕微授精などの生殖補助技術(ART)の3ステップです。 治療を進める中で、その治療法での妊娠は難しいと判断すれば、次のステップにあがることをおすすめしていますが、最終的にそのとおり進めていくかどうかはご夫婦の判断にゆだねています。「何がなんでも赤ちゃんがほしい。ドクターに必要といわれれば、体外受精もいとわない」という夫婦もいれば、「あくまでも一般不妊治療まで。そのために治療期間が長くなってもかまわないし、それでできなければ子どものいない人生を楽しむのも悪くない」という夫婦もいるでしょう。不妊治療は、多様な夫婦の価値観に合わせた十人十療のオーダーメイド治療であるべきなのです。
後悔しない判断をくだすためにも、まずは自分たちの置かれている状況をよく知りましょう。現在の治療段階で、二人が妊娠できる可能性は十分ありそうですか? 不妊治療には時間的なリミットがありますが、あなたの年齢にはまだゆとりがありそうですか?(35才を過ぎると卵子が加速度的に老化しはじめます)。卵子の質の低下は、ARTを持ってしてもカバーできないものなのです。 次に、治療の中身をきちんと理解しましょう。漠然と「そこまではしたくないなあ……」と感じて治療をためらっているだけで、実はどんなことをするのか知らないということはありませんか? “そこまで”を本当にわかったうえで決断しましょう。
治療期間中は夫婦で何度でも話し合い、その都度二人の思いをきちんと医師に伝えてください。私たちは、ご夫婦の意思を尊重しています。